次の日、雄二は学校に来なかった。その次の日も。
ぼくが家までプリントを届けに行っても、姿をみせることはなかった。
「いつもありがとう。雄二ね、部屋に閉じこもったまま出てこないのよ」雄二のお母さんが心配そうに言った。
「学校で何かあったのかしら、聞いていない? 塾にも行こうとしないの」
「別に何も聞いていません」ぼくはそう答えるしかない。
金曜日の放課後、家にだれもいないのを確かめて、雄二のケイタイに電話を入れた。ぼくは携帯電話を持っていない。
「小学生には必要ありません」母さんのひとことで、ぼくの要求は却下された。こういう時に必要なんだけど、母さんに理解させるのは不可能だ。
だれも帰って来ないようにといのりながら居間の電話を使った。雄二は家庭との連絡用にケイタイを持たされている。
「はい」元気のない声が聞こえた。
「雄二? 学校に来ないから心配してたよ」
「……」
「君の家にこれから行ってもいい?」
「……」
「行くからね!」ぼくは一方的に言うと電話を切った。
自転車をとばして、雄二の家へ向かった。チャイムをならすと、雄二のお母さんがドアを開けてくれた。
「よく来てくれたわね。雄二は自分の部屋にいるから」
雄二のお母さんはぼくの母さんと違って、いつもとてもきれいなのに、きょうは何だか疲れているようだ。めずらしく、髪の毛もぼさぼさだった。
ぼくは階段を上って雄二の部屋へ向かった。
「はいってもいい?」
「……」
返事はない。
ドアをそっと開けてみた。部屋のカーテンは閉めてあって、電気もつけていない。雄二はふとんをかぶってベッドの中にいた。
「どうしたんだよ、いったい」
「君になんか、わかんないよ」
「……」そう、ぼくには全然わからなかった。
雄二はぼくに背中を見せて壁の方をむいていた。泣いているようだった。どうしたらいいんだろう。ぼくはだまって、雄二が泣き止むのを待っていた。
「君、本当に順一君がやったと思っている?」
「……」
「ぼくはそう思わないけどな。リュウはかしこい犬だし、君のお兄さんがそんな事するわけないよ」
「……」
「明日は学校へ行こうよ」ぼくはさそってみた。
「……それだけじゃないんだ」雄二がつぶやいた。
「え?」
「学校へ行きたくないのはそれだけじゃない」
「他に何かあるの?」
「ゴリラがこわい」
「ゴリラが? どうして?」
「あいつ、ぼくにいやみばかり言うんだ。塾の成績はいいかとか、有名校うけるんだろうとか」
「それがどうしていやみなんだ?」
「言い方と、目つきがいやらしいんだ。ぼくの成績知ってる? テストは全部百点だけど、成績表ではひとつ落とされるのもあるんだ。授業に協力的でないって」
「ほんとか? 他にも受験するやつ多いのに。クラスの半分以上だよ。でもさ、一つくらい落とされたって、もともと成績良いんだからかまわないじゃないか」
「そういうわけにはいかないよ」
「ふーん」
母さんは自分の経験から小学校の成績なんて当てにならないって言ってる。小学校の時トップクラスだったんだって。中学、高校とだんだん成績が下がっていったそうだ。今ではどうでも良い事だと言ってるけどね。どっちにしてもぼくにはよくわからない。
雄二にくらべれば、ぼくの成績なんてひどいもんだ。算数と体育はいいけど、あとはみんな普通。いや、国語と家庭科は普通以下だ。でもさ、点数から言ったら家庭科なんて最低だけど、それでも普通以下程度でおさまっている。
ゴリラは雄二の言う程意地悪じゃないとぼくは思う。それにゴリラは良い先生だと母さんはいつも話している。
「でも、こんなふうに家にいてもしょうがないじゃん? 明日は迎えに来るから、一緒に行こう。土曜日だから半日だし」
「……」
雄二は黙ったままだった。