月曜日に学校から帰ってくると、母さんがその日テレビや犬の飼い主仲間から仕入れた情報をぼくに話してくれた。そういうたぐいの話をいつもは決してぼくには教えてくれない母さんだけど、今回はぼくも多少関係あるからね。
「カンタが拾ったナイフね、やっぱり凶器だったらしいわ。血液型が一致したらしいの。警察から連絡があってね、ナイフを拾ったこと発表してないから自分でも言わないようにって」
「なんで?」
「もちろん、危険だからよ。犯人が何をするかわからないでしょう?」
「うん、誰にも話してないよ。雄二は休みだし、ほかにそんなこと話せるやついないから」
「雄二君、お休みだったの? 珍しいわね」母さんが心配そうに言った。
「後でプリント届けに行ってくる。それより母さん、殺されたホームレスってどんな人だったの?」
ぼくは心臓がどきどきした。『学者さん』だったらどうしよう。
「テレビでは、大がらで、いつも黒い服に黒いマント着ていた人だって言ってたわ。名前はまだわからないらしいけどね」
「ブラック・マントだ!」思わず大声が出た。
「え?」母さんが聞き返した。
「ほら、前に土手のところで変な人に会ったって話したこと覚えてる? 地下の商店街から移ってきたって姉さんが話してた人! カンタをけとばしたホームレス!」
「そう言えば、そんなことあったわね」
「その人だよ、きっとそうだよ!」
じゃあ、『学者さん』は? 『学者さん』はどこへ行ってしまったのだろう?
だまりこんだぼくの前に、母さんがおやつの肉まんじゅうをおいてくれた。アツアツのそれを少しずつかじりながら、『ブラック・マント』と黒い傘のおじいさんの顔を思い浮かべた。
暗くならないうちに、ぼくは自転車に乗って雄二の家へプリントを届けに行った。
雄二は塾へ行っていて留守だった。
おばさんにプリントを渡して引き返した。
大変だなぁ、学校は休んでも、塾は休めないんだ。
急に思いついて、自転車を商店街へ向けた。
そうだ、ゲームセンターとパソコンショップへ行こう。ゲーセンに入るのは禁止されているけど、外からのぞくくらいはいいよね。
ゲーセンの前に自転車をとめた。
やってる、やってる。
うらやましいなぁ、ぼくは家でテレビゲームだ。
あれ? 雄二?
茶髪の中学生のそばにいるのは雄二?
話している相手はぼくからは後ろ姿しか見えない。この間会った順一君に似ている。まさかね、雄二は塾へ行っているはずだ。なんていったって真面目だから。
外から見ているのはたいして面白くないので、すぐパソコンショップへまわることにした。ここには自由にさわれる機種がいくつかおいてあるから、とても楽しい。
ぼくが入っていくと、店長さんが「新しい機種がはいったよ」と教えてくれた。
やったね。すごくうれしい。
「さわってもいいの?」念のために聞いてみた。
「いいよ。将来のおとくいさんになりそうだからね」と笑ってぼくを見た。
パソコンで色々試していると時間のたつのが速い。外はもうまっくらだ。ぼくはもう少し店にいたかったけど、やめにして自転車にまたがった。
「もう帰るのかい? 早いね」店長さんが声をかけてきた。
「夕食の時間だから」
「ほー、めずらしいね」
「なんで?」ぼくは不思議に思った。
「いや、小学生はみんな塾でいそがしいらしいよ。よく十時頃ハンバーガーかじりながら帰っているのを見かけるから」
「ぼく、塾へは通っていないから」日曜テストには行くけど、と口の中でつぶやいた。
ハンバーガーか、いいな。フライドポテトも思いっきり食べてみたい。母さんはファーストフードに偏見があるから、めったに食べさせてもらえない。ぼくが肥満になるって言うんだ。
帰る途中、もう一度ゲーセンをのぞいてみたけど、もう雄二に似た子も茶髪の中学生もいなかった。