樹氷で飾られた木を見上げた
首筋にふっと冷たい息がかかる
振り向けばそこに貴女がいる
白い衣装を身にまとい
寂しげな顔で立っている貴女がいる
いつからそこにいるの?
誰を待っているの?
貴女は微かな笑みを浮かべ
そっと首を傾げる
細かい氷のショールを羽織った貴女は
日の光にあたると、空へと消えた
貴女は樹氷の精?
問いかける私の声に返事はない
新雪に足跡を誰がつけたのか
辿って行けば
白い世界の そのまた先へと続く
全てのものが飲み込まれる洞へと続く
全てのものが落ちていく洞の先は
異形の者が住む別世界
二度とは戻れない異世界で
足跡の主は何をしているのだろう
ある日私は夢を見た
氷の中へ吸い込まれる夢
そこで私は結晶となって
純化された世界へといざなわれる
目にするものは全て青く
触れればガラスのように硬い
耳にするのは星の降る音
目覚めてみれば ここは現実
透明な世界は 夢のまた夢
もうそろそろ春ですよ
いつまでもくっついてないで
お母さんから離れて遊んでいらっしゃい
もう寒くはないのよ
あっちを見てごらん
蚤とりをしてるわ
蚤だってもう出てきたじゃないの
春って分かってるのね
あなたもとってあげるからおなかを見せてね
蚤取りがすんだらひとりで遊ぶのよ
いつまでも抱っこなんておかしいわよ
聞こえるでしょう?
ほら
海のほうから聞こえるでしょう?
あれは春を迎える海の歌
耳を澄ませば波の間に
微かに聞こえる春の歌
今は小さな歌声だけど
やがて海のコーラスとなり
暖かい春を運んでくる
あれは春を迎える海の歌
春だよ♪ 春だよ♪
ぼくの好きな春だよ♪
あっちにも蜜♪
こっちにも蜜♪
うれしいな♪ 美味しいな♪
そんなに浮かれるなって?
いいじゃないか 春だもの
待ちに待った 春だもの
羽目をはずして喜ぶのが
春を迎えるぼくのやり方さ♪
君もそんなに堅苦しくしないで
一緒に春を謳歌しようよ
冬の浜辺を感傷に浸って歩いた
しかし 体は正直者
すっかり冷えて 感傷より暖かさを求めている
近くにある海辺の喫茶店へ入った
壁にかかるサーフボードが私の胸に刺さる
そう あの人もサーファーだった
やはり青い色のボードに乗っていた
私の冷たくなった心と体を温めるかのように
ストーブの上のやかんが湯気を立てている
座ってじっとやかんを見つめると
湯気の向こうにあの人の顔が見える
思い出の顔……あら?
思い出も年をとるのかしら……
注文もしていないのに テーブルに置かれたのは
私の好きなカプチーノ
思わず運んできた人を見上げる
そこには優しく微笑むあの人の少し老いた顔があった
時計草の名のように
私たちの花は まるで時計の文字盤のよう
知らない間に 毎日時を刻む
見えないけれど 針が動いている
私と 隣に咲いている花と
同じ時を指してはいない
私には私の 彼女には彼女の時がある
時計はまわる ひっそりと
それぞれの個性に合わせて 確実に時を刻む
こうやって首を出して見ても
あるものは 雪 雪 雪
みんなどこへ行ったんだろう
寒がりが多くて まだ出てこないんだろうか
ぼくは元気! 元気!
雪はぼくの友達さ
みんな 寒がってないで 出ておいで
一緒にあそぼうよ
雪はこんなにふかふかで気持ちいい
一緒に雪でかくれんぼしよう
おーい みんな出ておいで
冬の太陽が
斜面に長い影を作る
その日差しは
春の訪れの近いことを知らせているようだ
森の中の厳冬と
草原の春の兆しと
山は色々な表情を見せてくれる
私たちは異なった顔に惹かれて
いつも山へ登るのかもしれない
なんだ? なんだ?
なにがあったんだ?
わからないけど 何かあるらしい
なにがあるって?
さあ?
みんな集まってるから
何かあるんじゃないか?
ワイワイ ガヤガヤ
で? 結局なにがあったんだ?
さあ?
何があったんだろう?
私たち春の先遣隊
みんなに春を知らせるのよ
あんまり暖かいのでお昼寝をしていたら
お役目をすっかり忘れちゃったの
そしたら 私の花びらが伸びちゃって……
春はこれから
周りはまだ蕾なのに
これから張り切ってお役目頑張らなくっちゃ
でも 私だけしわが出てしまって……どうしましょ
ウーム
世の中は近頃どうなってるのか?
ここにとまって眺めてみる 考えてみる
鳥の世界が良く見える・・・はずだ
人間の世界も見える・・・はずだ
だが しかし
ウーム
あそこに蜜のある花が咲いているのは見える
地面にはまだ虫が出てきていないのは分かる
だが しかし
他に見なくてはならないものはあるのか?
ウーム

春が近づくと
水鳥も色々な行動をとる
あれやこれやと
おしゃべりをしながら泳ぐもの
他を寄せ付けず
ひとり悠々と泳ぐもの
また 恍惚状態でなにかに没頭するもの
さまざまだ
あの鳥は何をしているのだろう?
首をひねることも多々あるが
それも 近づきつつある春の空気のなせるわざ
微笑ましく のんびりとながめよう
だが あの鳥は水に頭をくっつけて
いったい何をしているのだろうね