ヴァイオレット すみれ色
菫は紫色だと長い間思っていた
ヴィオラやパンジーには色々あるが
色の名前になるくらいだもの
濃淡はあっても菫は紫色
そう信じていた
ある日 白いスミレを見つけて
はっと息をのんだ
紫色の中に一輪の白いスミレ
それはあの人を初めて見た時と同じ感覚
ひと際目立った清楚な彼女
あの人にあこがれた若い日
ふと懐かしく思い出した
色々な理由で私は嫌われている
いやな匂いがすると言われ
何処にでも出てくると罵られ
名前が悪いとまで囁かれている
何を言われても 日陰でじっと耐えている
私はめげない
いつか 私を認めてくれる人が現れると信じているから
いつか 私だけを見てくれる人がいると思うから
かわいいね と言ってくれる人がいると知っているから
私はめげない
新緑の季節に山を歩くと
思わぬ発見をする
さえずりながら 鳥が空を横切り
春先に咲いた草花の後には
潅木の花が我が世を謳歌する
緑の空気を胸いっぱいに吸い込んで
花を愛で しばし世間を忘れる幸せの時
来年もまたここへ来て 至福の時を過ごそう
貝を耳に当てると 波の音がするという
静かな浜辺でみつけたこの白い巻貝からも
何かが聞こえるかもしれない
そっと耳を近づけて聞いてみる
打ち寄せる波の音にまじって
かすかに聞こえるのは 海の声
まるで私に訴えるように
その声は寂しげに響く
それは まだ海辺に子供たちの歓声が戻っていないから?
波打ち際で戯れる若者たちがいないから?
もう少し待てば人の集まる季節が来る
子供たちの走り回る夏が来る
雑草という草はないと言われるが
私たちは ひとくくりで雑草と呼ばれている
すぐ地面から剥がされ打ち捨てられ
足で踏まれ再起不能になる
花が開けば 種がふりまかれて増殖すると抜かれてしまう
私に目をとめて可愛いと言ってくれる人がいると
それだけで幸せな気持ちになる
ありがとうと声は出せないけれど
感謝の気持ちを伝えたい
そして貴女にも幸せをと祈る
おい みんな
人間の子供がきた
そばによるんじゃない すぐ捕まえられてしまうぞ
万が一 あの紙の輪に乗せられたら 大暴れしろ
運がよきゃ 紙が破れて助かるが
運がわるけりゃ ビニールの袋に入れられてしまう
その先はどうなるかって?
それは知らない
言える事は ろくな目にあわないってことさ
今の生活よりましかもしれないって?
そう思うなら捕まってみるがいい
俺は責任もてないからな
山里に彼女はひっそりと住んでいる
4人の付き人が彼女を包み込むように守っている
日の光を浴びようと顔を出した時でも
ひとりで舞う時でも
付き人はぴったりと寄り添って
彼女を保護しているようだ
我々に許されるのは
彼女の舞を遠巻きにみるだけ
手を触れる事はもちろん
近寄る事さえも躊躇してしまう
そんな雰囲気を醸し出して
優雅に舞う彼女の名前は ひとり静
姉 私たち双子だけどあまり似てないと思わない?
妹 そうね 私の方が美人だわ
姉 とんでもない! 私の方がもててるわよ
蝶々も てんとう虫も 貴女より多く来てるわ
妹 それはお姉さんの方が日の当たる場所にいるからよ
アブラムシだって沢山来るじゃないの
姉 日が差す場所は貴女と大差ないわよ
妹 少なくとも私のところへは変な虫は来ないわ
美人はとっつきにくいのかもね
姉 好きなだけ言っていなさい
夏になれば地面から色々な虫が上がってくるわ
私たちには選べないのだから
今のうちから我慢を覚えないとね
妹 あ 蝶々が飛んできた
黒いアゲハチョウだわ 絶対私にとまるわ
私の方が美人ですもの
大きな桜の木の幹に
細い小さな枝を見つけた
幹にしがみつくように出ているその枝は
おかあさんにつかまっている赤ちゃんのようだ
一人前に花を沢山つけて
存在をアピールしている
やがて枝は太くなり桜の木の一部になる
それまで何年かかるだろう
それまで伐られずにいるだろうか
「ねえ、このドレスは赤すぎたかしら」
「そんなことないわ とてもよく似合ってる」
「貴女のようにピンクのドレスも着たいけど
もう歳も歳だから・・・」
「ドレスに年齢なんか関係ないわよ
一度着てみたらどうかしら?」
「そうしたいけど
この赤でさえ気後れしてるのに」
「ピンクもきっと似合うと思うわ
私のドレスと取り替えてみる?」
「気持ちは嬉しいわ でも無理なの
この赤いドレスは夫からのプレゼントだから」
「あらあら ご馳走様
そういうことは 最初に言ってね」
カタクリの花は思う
お隣の白い花は 太陽に向かって花びらを精一杯開いているのに
私の花弁は何故反っているのだろう
地中に長くいて 花をつけるのに数年かかるのは何故?
花びらにある素敵な模様を見てもらいたいのに
どうして私はいつも下を向いているのだろう
カタクリは思う
いつかわかる日が来るのかしら