shitsugen2


東へと東へと 歩いていけども精霊の気配はなく
小さな沼に浮かぶ草も花も
精霊の行方を知らない
たとえ水に囁きかけたとしても
私に答えてくれないだろう
行く手を阻む沼にため息をつき
ただ水面を眺めるだけ
頬を撫でる風は 私を慰めてくれるようだ

      
      


体は疲れ 足は重い
そんな私をみかねたのか
沼に浮かぶ水草が手招きする
「水に浮かぶ葉の上を つま先でそっとのってごらん
向こう岸まで渡してあげよう」
好意に甘えて 葉の上に乗る
つま先で トン トン トン
軽やかに向こう岸まで飛び跳ねる


迎えてくれたのは穂となったチングルマ
精霊に会いたいと 私はここでも訴えた
果穂はその穂をくるくる回し
私の願いを受け入れた
「湿原を渡る精霊は 日の落ちるころ姿をみせる
もしもあなたが辛抱強く ここで待っているならば
運がよければ会えるはず」

      
      


私は花と会話を交わし
小さな虫と戯れて しばしのどかな時を過ごす
花も虫も私のために
精霊が現れるのを待っている
花も虫も私のために
日の落ちるのを待っている
夏も終わりに近づいた
この湿原の花々は
姿を変えて秋に備える


日はゆっくりと西に傾き
そろそろ湿原を渡る精霊が
姿を現す頃合だ
私はじっと息をのみ
精霊の出現を待っている
風が私の頬かすめ
果穂の頭が風に揺れる
水面が小さくざわめいて
精霊の訪れを知らせている

      
      


湿原を渡る精霊の
その姿を見たときに
私は傍へ駆け寄った
恋人の行方を知らないかと
尋ねる私に微笑を与え
湿原を渡る精霊は
謎の言葉を私に残した
「冬の初めになったなら
恋人と過ごしたあの山に
一人で登ってくるが良い」
その言葉を噛みしめて
私はまた旅に出る
恋人を探す旅に出る






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