湿原


眼下に広がる湿原を
今 私はみおろしている
あそこにいるはずの精霊に
出会いたいと願いつつ
眼下に広がる湿原を
今 私はみおろしている
広い広い湿原の
どこに精霊はいるのだろう

      
      


思い切って湿原の
木道に立って見回せば
果てしない広さに言葉もなく
精霊に出会えるむずかしさに
私の心は震えている
気持ちを奮い立たせて私は
足をゆっくりと踏み出した


私があの人を失ったのは
去年の冬のことだった
何も言わずにあの人は
私の前からふっと消えた
一体 何があったのか
私を残してどこへ行ったの?
恨む気持ちもあったけど
私はあの人を探す旅に出た

      
      


あれからどのくらい経ったのか
旅を続けているうちに
花とたわむれ 木々と話す
そんな術を身につけた
木道の傍で咲く花に
私はそっと尋ねてみる
ここに棲む精霊に 会って話をしたいけど
どこにいるのか知らないかと


花はそっと首をふりながら
気の毒そうに私をみた
「湿原を渡る精霊は めったに姿を見せません
ここの沼地に住む私たちでさえ
お会いしたのはかなり前
ましてあなたは人間で ここの住人でもありません」
それでも私は会いたいと
恋人の行方を知るために
命をかけても会いたいと
私は花に訴えた

      
      


花はかすかに頷いて
湿原に咲く花たちに 私の願いを伝えてくれる
風もないのに花は皆 頭を東になびかせた
「ありがとう 湿原のお花たち
 ありがとう 湿原の草たち」
私は皆にお礼を言って 東へ向かって歩き出した
湿原を渡る精霊に会うために
東へ向かって進んでいく

               つづく






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