spring


冬から春へ変わる僅かな時間に
儚き花の精霊として
私は姿をみせる
遅い春の訪れを知らせる精霊として
私は姿をみせる
ひっそりと咲く小さな花達を守るため
私は姿をみせる
そして今年が私の最後の務めになるだろう

      
      


雪の下から顔を見せていたフクジュソウは
太陽の光を体一杯に受けて 元気に花開いていた
「今年も元気に顔を出したね」
私は優しく話しかける
「ええ 再び咲くことが出来ました」
花は輝いて 花びらを広げる
隣に咲くイチゲにも私は顔を向けた
「またあえて嬉しいよ」
「私もです 精霊様」


春の初めのほんのひとときを
もてる全ての力を使って咲く花は
それだけで愛おしい
花の言葉に耳を傾け 願いを聞く
そんな私の役割も
今年で終わると思えばこそ
ひとつひとつの花の声を
しっかり聞かねばと 心に誓う

      
      


イチゲの花は訴える
仲間が少なくなったと訴える
「私はまたこの地で咲くことが出来ましたが
仲間の多くは どこか遠くの土地へ連れ去られ
元気かどうかもわかりません」
花びらの先から 涙のように雫がポトリと落ちる
「どうか 仲間の安否を教えてください」
彼女の仲間の悲しい最後を
教えてよいのかどうか 私は少し躊躇した



「私の仲間も減りました」
うつむきながら カタクリは
ポツリポツリと語り始めた
「かって私の仲間は 群をなして住んでいました
群れはたくさんあって それはそれは賑やかでした
でも みんなさらわれて
だれもいなくなってしまった所も少なくありません
でも この山では
少しずつ ほんとに少しずつですが
私の仲間が増え始めています
いつか昔のようになることを
希望をもって待っているのです」
私はその場をそっと離れた
イチゲに余計なことは話すまい
このカタクリがいるのなら
やがて元気になるだろう


      





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